Sube tres y se cae dos.

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zoom RSS 飢えた者

<<   作成日時 : 2010/03/24 00:15   >>

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金のかかったレジ袋を持って老人は土手へ腰掛ける
やがて近寄ってきた子犬を触りながら独り言を言い始めた



この時間にテレビを付けりゃぁ
若い姉ちゃんが食いもんの取材ばっかりしているじゃねぇか?
ちょっと前の何とか総理って奴は
カップラーメンの値段を四百円だと思っていたらしい
そんな高級なカップラーメンなんて俺は見たことねぇし
姉ちゃんが取材しているような店も金が無くて行けねぇよな…



無邪気に尻尾を振る子犬に微笑みながら、
老人は土手に生えた小さな蓬の芽を摘み始めた

一つ一つ手で摘んでは持っていたレジ袋へと詰める
隣で座りながらジッと摘み終わるのを待っていた子犬



夕食として食べるつもりだったソーセージを丸ごと一本
老人は何も言わずに子犬へと与えた

心配すんなって…
俺は蓬を食って今夜はしのぐから平気だよ

ソーセージを美味そうに食べる無垢な子犬が
老人には愛しくて仕方が無かったのだ



行く宛のない老人は
いつも川岸のベンチに寝てラジオを聴いていた

目を瞑ってラジオの向こうで討論する奴らの姿を思い浮かべながら
時間をつぶしていた

行く宛が無いのは子犬も同じだった
箱に入れたまま川に流されて運良く川岸に辿り着き
藁にもすがる思いで腰掛けていた老人の元へ歩み寄ったのだ



なぁ、犬よ…
生まれ変わってもお前は犬になりてぇか?

もし
お前が生まれ変わっても犬になることを望んだら
俺も人間になることを望んでだな…
お前の飼い主にでもなるか

もちろん
お前がこんな俺でも良いと言った場合の話だがな…
笑いながら子犬に話かける老人



老人は この街が好きだった
正確にいうと 夕日に暮れるこの街の風景が好きで
毎日 ここで風景を見ていた

遠くに見える電波塔は いつの間にか都会のシンボルとなって
暮れる夕日と電波塔が重なり合うその瞬間を
いつも老人は哀しげに見ていたのだ



悪いけど
今日は何もねぇんだ

昨日
お前にやったソーセージが最後だ
悪ぃな…

震えた手で子犬を撫でると
子犬は歩き出した



赤く染まった街を子犬は歩く
頭上ではカラスが騒ぎ
どこまでも付いてくる

陸で休んだ鴨を捕まえようと
走って追いかけたものの
水の中へ逃げられてしまい危うく溺れるところだった

汚れた子犬の身体が歩く人の足とぶつかる
黒い鞄を高々と上げて叫ぶ人の姿はまるで
自分に対して威嚇しているようにも思えた

人の群れを避けて路地裏に入った子犬は
ゴミ箱から小さな袋を見つけた
老人の微笑む顔が見たくて袋を加えて歩いた道を戻る
長く伸びた子犬の影が うっすらと夜に包まそうになるなかで
老人のいる土手へと向かう



老人は今日も袋を持ちながら
土手に腰掛けていた

何も入っていない袋に
蓬を詰め込んでいたそのとき

老人は
ふと後ろを振り返った



尻尾を振りながら老人を見つめる子犬
口にしていた袋はボロボロになって
赤く染まっていた

駆け寄る老人の前にポロッと袋から落ちた1個のリンゴ
リンゴを手にした老人が 子犬を抱き抱えると
嬉しそうに子犬は目を閉じた



生温い子犬の温もりを感じながら
老人は涙をこぼす

零れた涙の滴は
汚れた身体を洗い流す

街とともに夕日に照らされる
老人と子犬の姿



四百円のカップラーメンとテレビ取材に取り上げた店
いつの日かよぅ…
お前と一緒に美味いかどうか味わってみてえなぁ…
お前もそう思うだろう…?



泥まみれになった両手を併せ
老人は
子犬に向かって言う

袋から零れ落ちた蓬は
風に吹かれて
子犬の眠る側で動きを止めた



夕日に暮れた街のなかへと
消える老人

いつものように
暮れる夕日と電波塔が重なり合っても

そこに哀しげな表情をする老人の姿は二度と
見ることはないだろう





2010-03-24,produce by m.sakurai

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